和食と日本酒の相性を本気で考える料亭の裏側がスゴかった!
2018年9月13日に開催された「酔舞の会」の半月前、8月30日に西野金陵さんのお酒に本番の料理を合わせていく試食会が料亭二蝶で開催されました。
西野金陵の杜氏である酒井さんと、二蝶の主人、山本のホンネをまじえた座談会のようすをお伝えしましたが、それに続く2回目の打ち合わせということになります。
今回は、実際に料理と日本酒を合わせて味わいながらどの料理にどのお酒を合わせていくのか、酔舞の会をどういった流れで進めていくのかを決めていく場になります。
その現場に西野金陵の酒井さんもお招きし、実際に当日のお料理とお酒を合わせながら本番をどういったカタチのイベントにするか作戦を練っていくことになります。
よって、今回の記事は、料亭二蝶で開催されるイベントの舞台裏がどのようなものなのかをレポート形式で紹介させていただくことになります。
酔舞の会で登場した日本酒はこちら
試食レポートの前に、まずは料亭二蝶の普段のサービスを簡単に説明させていただきますと、通常、料亭のメニューではお食事に合ったお酒を提供させていただいています。
二蝶にお越しくださった方であれば、お料理が変わる時にお出しする日本酒も変わることがあるということをご存知の方も少なくありませんよね。
だから、今回の酔舞の会においても主役となる日本酒と、それに合う料理を提供させていただくというスタンスになります。
酔舞の会は、西野金陵さんとのコラボで開催されるため、お出しするお酒はすべて西野金陵さんのお酒というのが原則です。
今回登場する予定のお酒はゆず酒、あきげしき、秘蔵古酒、ひやおろしの全部で4種類。
お料理に合う料理お出しするため、日本酒がどの料理と相性が良いのかを1つひとつチェックし、献立の順番なども再構築する必要があります。
まずは料理に合わせるまえに、ご用意いただいたお酒をひと口飲んだ感覚をお伝えしましょう。
といっても、味や香りのことは座談会の記事で既に紹介済みですし、同じことを何度も言ってもつまらないので、実際に飲んでみた特徴をそれぞれのタイプに分けていくことにします。
せっかくお酒の会なので、飲み会メンバーになぞらえてタイプ分けしてみますので、あるある的な感覚でお楽しみいただけると幸いです。
ゆず酒
幹事さんタイプ
国産ゆず果汁を惜しみなく使用した爽やかなお酒「ゆず酒」は、飲み会で言うと幹事さんのようなタイプ。
乾杯の挨拶の時にはきっちり役割をこなし、あとは飲み会がきちんと回るように気遣いをしながら場を取り仕切る幹事さんのように、食前酒として全員に爽やかさを運んできた後は、ほしい人の所にだけ赴いて役割をきっちりこなします。でも、お食事の途中にもひょっこり顔を出して飲み会も楽しんでいる、気遣い上手の幹事さんのようなタイプのお酒です。

あきげしき 無濾過 純米吟醸生原酒
優等生タイプ
甘くてフルーティーな香りが広がる飲みやすい日本酒「あきげしき」は、飲み会では相手に合わせてきっちりと受け答えをする優等生タイプ。
みんなの話をまとめたり、話題を振って盛り上げたり、中心的な存在で、とりあえず彼にまかせておけば飲み会がうまく回るのでとっても重宝される。
傍から見ると、本当に飲み会楽しんでますか?と聞きたくなるけれど、本人は本人でそういうのが楽しいみたい・・・という人、いませんか?お酒としても、料理にしっかりと合わせていく優等生タイプの「あきげしき」は、最初から最後までこれ1本でなんとかなってしまう日本酒好きには欠かせない1本です

大吟醸 秘蔵古酒
破天荒タイプ
口の中でふわっと香りが広がり、深く、複雑な味わいを兼ね備えた「秘蔵古酒」は、飲み会で言うと破天荒タイプ。
すごいいい奴なんだけど、けっこうやらかすからなぁ。という部分も目立ち、理解できる幅が狭いので警戒されがち。でも、尖っている分合うところがわかりやすく、相性がよい人とはとことん仲良くなって二次会にも三次会にも参加して朝までとことん飲み明かしてしまうというような不思議な魅力を持っています。
クセの強い味わいなので、「秘蔵古酒」だけを飲み続けるのはよほどのツワモノのみ。でも、料理にバッチリ合った時の感動もまたスゴく、それが理解できたときにまたひとつ日本酒が好きになれる。きっとお酒好きにしか理解できない魅力が備わっています。

ひやおろし(純米原酒生詰)
リア充タイプ
秋の味覚に合わせやすい芳醇な味わいの「ひやおろし」は、飲み会には欠かせないムードメーカーで、欠かすことのできない存在です。
一人でいると意外と目立たないけれど、誰かと一緒にいるとひときわ輝くタイプの「ひやおろし」は、ついついいて欲しくていろんな人から飲み会に誘われてしまうリア充タイプ。「お前、どこの飲み会にもいるな」と言われてしまうくらい、顔を出します。食べ物に合わせて飲むことに使命感を持っているのではないかというくらい何かと合わせたい日本酒なので、ぜひ秋の味覚と一緒にお楽しみください。

月白
助っ人?
酔舞の会で登場するお酒のラインアップに入っていなかったはずの月白が、助っ人として登場。
飲み会に例えても助っ人、酔舞の会でも助っ人という器用貧乏タイプの「月白」は、飲み会で気がついたら気の合う人を見つけていい感じのムードになっているタイプです。ひやおろし、古酒、あきげしきのみんなが苦手なタイプとする食べ物にスッと合わせられる器用さは、酒好きに「さすが助っ人」と言わしめる謎の説得力を持っています。
予定になかったはずなのに「遅くなってごめんね」という感じで飲み会にいきなり登場してきますのでぜひお楽しみに。

お酒を注ぐグラスにもおもてなしの心を
それでは料理の説明に・・・といきたいところですが、その前に、どのお酒をどのグラスに注ぐのかを考えていきます。
これも本番を想定していく上で大切なこと。
冷えたお酒を全部同じグラスで飲むよりも、いろんなグラスで楽しんだ方がいろいろ飲んだ気分にもなれますしね。
秘蔵古酒は琥珀色をしているので、透明のグラスの方が相性が良い。ワイン感覚で飲めるフルーティーな味わいの秋景色はワイングラスの方が良い?一番飲む機会が多いであろうひやおろしはおしゃれなグラスを使って・・・。
お酒の色、見た目、雰囲気など、さまざまなことを考慮に入れながら、どのお酒とどのお酒が相性が良いのかを見た目でチェックしていきます。
グラスの種類を変えるとどのお酒が減っているかが分かる
今回、料理がどのお酒に合うのかとチェックするため、料理を食べてはすべてのお酒を飲んで合わせるという行動を繰り返していたため、常に御膳の前には全種類のお酒が用意してある状態でした。
どのグラスにどのお酒が合うかな?という見た目のチェックもありましたが、それ以上にグラスを分けることでどのお酒が減っているのかが分かりやすいことが非常に役立ちました。
お酒を飲む醍醐味といえばやっぱりお酌をしながら会話を楽しむこと。もし、グラスが同じでどのお酒が減っているのかがわからなければお酌をしにくいですよね。
そう言った意味では、試食会だからこそグラスを分けておくことが大事だったのかもしれません。
酔舞の会のお献立は全12種類
酔舞の会に登場する料理の品数は全部でなんと12種類。そのうちデザートやシメなどを抜くとお酒と一緒に楽しむのは9品になります。和食の料亭と思いきや、これは和食なのか?と思える内容が並び、食べる前から気になるものがいくつもあります。
前回の打ち合わせで酒井さんもおっしゃられていたように、同じ酒蔵で作った日本酒でもそれぞれにまったく違った特徴を持っているため、例えばひやおろしとあきげしきを比べてみてもその味わいは大きく異なります。
ただ、そうは言っても同じ日本酒。
この時点では料理に合うとか合わないとか、そんなに違うものなのか、半信半疑な部分もありましたが、そんな心配をよそに試食会は幕をあけました。
酔舞の会 お献立
- 1.ウコンごはん 焼帆立
- 2.伊勢海老酒盗焼 オリーブオイル シジミ潮汁
- 3.豚角煮 冬瓜
- 4.牛ひれ塩焼き 枝豆ソース
- 5.鮪漬け アボガド 黒胡麻
- 6.加茂茄子揚げ 赤穂唐揚げ ふかひれ庵 生姜
- 7.たこやき 白葱 細葱
- 8.鮑ステーキ 肝ソース 卵黄味噌漬け
- 9.松茸玄米粉揚げ 青唐 すだち
- 10.山葵酢和え 鱧 おろし 花穂紫蘇
- 11.子持ち鮎そうめん 生姜
- 12.渋川栗 柿 無花果 マスカルポーネ 振り柚子
ウコンごはん 焼帆立
最初に登場するのはウコンご飯。お酒を飲む前に少し炭水化物を入れておくことで悪酔いを防ぐことができるそうなので、これを食べて心も体も酔舞の会に臨む態勢を整えることができます。
さらに、ウコンにはご存知、肝臓を保護してくれる作用があるため、お酒の会の前に登場する食べ物としては相性も抜群。
帆立の香ばしさがほんのりと香ってきて食欲をそそり、口に運べばパルメザンチーズの塩分が効いた優しい味わいが広がります。
伊勢海老酒盗焼 オリーブオイル シジミ潮汁
さて、お待ちかね。いよいよお酒に合わせる料理です。
登場したのはまるで高級フレンチかという欧風のフォルムをした伊勢海老酒盗焼。
酒盗で焼いたという伊勢海老を串刺しにし、シジミのエキスが入った汁と、エキストラバージンのオリーブオイルが二層構造になったスープに漬かっているなんともオシャレなひと品。
口に運べば、さっぱりとした味わいの中にもシジミエキスの濃厚さとオリーブオイルの味わいが絡み合います。
さっそく料理とお酒を合わせてみると、開口一番、全員の意見が一致します。
「古酒は、ないですね」
秘蔵古酒のクセの強さは、日本酒の中でも風味が強いことと、後を引く独特な味わい。
それが、食べ物の味と相まって嫌な感覚で残ってしまうのです。
一方、あきげしきとひやおろしの相性はなかなか上場。特に、ひやおろしとの相性は抜群で、お互いの味を引き立てあっていることが感覚としてわかります。
「さすがひやおろしですね。料理と合わせるとどちらの味も引き立つ感じがします」
「あきげしきも合うけれど、やはりひやおろしはさすがですね」
と、まるで秘蔵古酒のことなど忘れてしまったかのように、あきげしきとひやおろしを褒めたたえます。
ちなみに伊勢海老を食べ終わるとシジミ潮汁とエキストラバージンのオリーブオイルのみが残りますが、飲んでもOKです。
というか、むしろ飲んだ上でもう一度ひやおろしと合わせてみてください。
先ほどとはまた違った表情を楽しめますよ。
それにしても、ウコンご飯にシジミの潮汁で、お酒を飲む準備もバッチリですね。
そして、この時全員の頭に過ったのは、本当に秘蔵古酒に合う料理は出てくるのだろうかということ。
さすがにクセが強過ぎただろうか。一度ぐらいは合う料理が出てきてくれれば良いな。
これは、二蝶の主人である山本の腕にかかっている。きっとなんとかしてくれるはずだ…と。
豚角煮 冬瓜
そして、次の料理は豚の角煮。たっぷりと辛子が乗っかって登場してきました。
和食としての地位はそこまで確立されていませんが、豚の角煮は長崎の代表的な卓袱料理として知られているほか、沖縄でも「ラフテー」という名前で広く知られています。
濃厚な味わいと強い油の感覚は、さきほど食べた伊勢海老酒盗焼とは全く方向性が違うので、どのお酒に合うのかと全員が興味津々。
そして、全員が驚きの表情を浮かべるのです。
「古酒が、合う」
先ほどいの一番にこれはないと言われた秘蔵古酒が、豚の角煮に合わせるとまるでこれと合わせるために生まれてきたお酒なのではないかと思えるくらい、絶妙な位置にいます。
その合いっぷりは感動のひと言。
当然ですよね。先ほどまで、飲み口が、後味が、風味が、と言っていたはずなのに、マイナスだと思っていたその感覚が料理と合わせることによってすべてプラスになってしまったのだから。
「やっぱり二蝶さんはさすがですね。古酒に合う料理をきっちり用意されていたなんて」
と、秘蔵古酒にも合う料理があったという安堵と、料理も2品目になって少し酔いが回ってきたのとで饒舌になってきたテンションで称賛の言葉を浴びせます。
そして、メニューをチラ見しながら、おそらく最初で最後になるであろうからと、秘蔵古酒をとにかくこの場で褒めちぎったわけです。
牛ひれ塩焼き 枝豆ソース
続いて登場したのは牛ひれの塩焼き。
鮮やかなライトグリーンの枝豆ソースの上に大きく3キレも乗っかっていて、存在感も抜群です。
牛ひれの塩焼き単体でももちろんおいしいのですが、枝豆ソースがあることによってお酒と合わせた時に肉との相性がより良くなっているイメージ。
枝豆ソースはさしずめ両者の間をとりもつ潤滑油のような役割とでも言うべきでしょうか。
まずは秘蔵古酒をひと口合わせ、全員がやっぱりな。という表情をしながら元あった場所にグラスを戻します。
今回最も相性が良いと感じたのはあきげしき。
シンプルでさっぱりとした味付けや、枝豆のやや甘口のソースとの相性が抜群です。
「枝豆ソースの隠し味にお酒を入れてあります。実は、お酒のつまみを作るなら隠し味にお酒を入れるとより合いやすくなることが多いんです」
と、料理を運んできた二蝶の主人、山本が言うと、妙に全員が納得の表情を浮かべ、なるほどと頷きます。
やはり近いモノどうし引かれ合うということでしょうか。
鮪漬け アボガド 黒胡麻
続いては鮪漬けの登場です。シンプルで味わい深い鮪漬けと、その上に乗ったさっぱりした味わいにややピリ辛感のあるアボガドのソースが乗っかっています。
口に運ぶととても爽やかで、純粋に鮪漬けを味わえる絶品メニュー。
なのですが、ついにその時がやってきてしまいました。
古酒を飲み、あきげしきを飲み、ひやおろしを飲み・・・全員の頭の上に「?」が浮かんでいます。
一番合うのは・・・あきげしきか?
でも、合うというよりも、ただ単にこれ、あきげしきがおいしいだけで料理に合ってる感覚じゃないぞ。
今までの和食と日本酒が合うという感覚は、おいしいとおいしいを合わせると超おいしいになった。という感覚。
対してこれは、おいしいとおいしいを合わせたらやっぱりどっちもおいしいね。という感覚。
どうしても違和感がぬぐいきれません。
「これ、全部合ってない感じがしませんか?」
二蝶サイドからは言い出しにくいコメントを西野金陵の酒井さんが口にしてくれます。助かった!
「確かにちょっと合ってるという感覚とは違う気がしますね」
どれを飲んでもちょっと違うという、今までにない感覚に、二蝶の主人山本が口を開きます。
「お刺身だったり、今回の鮪漬けだったりというシンプルな味わいのものはもしかすると金陵さんのお酒は合いにくいかもしれません」
詳しく聞いてみると、西野金陵さんのお酒の多くは、メインのようなしっかり味付けがされた料理には抜群に合うのだけれど、お刺身のようにお魚をシンプルに楽しむようなものには合いにくい日本酒が多いとのこと。
これは、酒蔵さんによって異なることが多く、逆にシンプルな料理に合うお酒を作る酒蔵さんの日本酒は味付けをしっかりとした和食には合いにくいのだそう。
それを分かってはいたものの、メニューの中に組み込んだのはやはり和食のメニューにこういった魚をシンプルに調理したメニューをひと品は入れておきたかったということでした。
「これは私にとっても挑戦でした」
という言葉通り、本来合わないはずの料理をどう合うように持っていくかということだったのですが、そもそも焼いたり煮たりといった調理をしないのだからできることは限られています。
結果、やはり合わないものは合わないというところに落ち着いてしまいました。
納得はした。だが、どうしよう。
他の酒蔵さんに助けていただくしかないのでしょうか・・・
と、困った雰囲気に包まれ始めましたが、二蝶の主人、山本が「突然変異」と称する助っ人が西野金陵さんのお酒には存在していたのです。
「おそらく金陵さんの月白なら合うと思いますよ」
と。
その言葉に導かれるように、テーブルには助っ人の月白が登場します。
それを口に入れた瞬間に思わずこぼれたひと言。
「なるほど!」
超おいしいが再び戻って来たと言うべきでしょう。
月白の優しく包み込んでくれるような味わいは、鮪漬けのシンプルな味わいを決して邪魔することなく、優しく引き立ててくれます。
これには西野金陵の酒井さんもご納得のようす。
「そういうことですか!」
と、サスペンスドラマのトリックが謎解きされた時のような表情をしています。
どうやら金陵さんにお刺身のような料理に合うお酒が今までなかったけれど、月白はそういうお酒だということを事前に言われていたらしく、それを実際に体感したことによって文字通り謎がすべて解けたごようすでした。
それにしても、通常はある程度製法や使用しているものが似通ってくるため、たとえ違うお酒だったとしても同じ酒蔵でお刺身のような料理にもメインの料理にも合わせられる種類のお酒が出てくることはまずないらしいのですが、それをやってのけた金陵さんのお酒造りに対する情熱には感服しました。
加茂茄子揚げ 赤穂唐揚げ ふかひれ庵 生姜
助っ人の登場によって手元の日本酒は3品から4品に増え、またいい感じに酔いも回って来た段階で登場したのがこちら。
加茂茄子揚げ 赤穂唐揚げ ふかひれ庵 生姜です。
生姜が単体でメニュー表に登場している意味を感じられるくらい、その風味を感じられるひと品。
加茂茄子揚げと赤穂唐揚げを中華風のふかひれ庵が包み込み、深い味わいと独特の食感を楽んでいると最後に生姜の風味がふわっと広がる絶品です。
さきほどの助っ人の一件があってここまで話題性には事欠かない状況。
毎度毎度驚きを提供しなくても大丈夫ですよと誰もが思い始めていたはずなのですが、やはりここでもあるんです。
頭の上に巨大なビックリマークが。
「古酒が合う!」
もはや今日のトレンドとも思えるそのワードは、忘れていた頃に感動とともに訪れました。
何故でしょうか。あきげしきやひやおろしにバッチリ合う料理も素晴らしいのですが、秘蔵古酒に合った時は他にはない独特の驚きと感動に支配されてしまうのです。
さっきまで荒くれていたのに、突然優しくなりやがって。という落差が引き金になっているとでも?
そうか。これがギャップ萌えというやつか。
ギャップ萌え
「悪そうな人が捨て猫に餌をあげる」というように、一般的に見て悪そうな人が、持たれがちなイメージと相反する行動をした時、それを見た第三者が持っていた固定概念にギャップが生じ、意外性、多面性から好感に繋がること
酔っていることも手伝って、もはや料理がすごいのか古酒がすごいのかよく分からない状況になりつつあるのですが、和食だけでも日本酒だけでも味わうことができなかったものが、両者の邂逅によって驚きの変化を遂げた時、その落差が大きければ大きいほど人は感動するのだということを教えてくれているような気がします。
たこやき 白葱 細葱
メニューをひと目見た時から、おそらく誰もがずっと気になっていたメニュー。
それが、この「たこやき」ではないでしょうか。
フレンチっぽい和食に始まり、郷土料理から中華に至るまで、さまざまなものを和食のテイストに取り入れてきた酔舞の会のメニューにはさすがと舌を巻くばかりでしたが、「たこやき」って変わり種すぎでは?
と思いませんか?思いますよね。
登場したそのたこ焼きを見て、ひとつ確信したことがあります。
そう、見た目はまごうことなき誰もが知っているフォルムの「たこやき」です。
舟皿に入れて6個入りで置いておけば、おそらく誰も二蝶で作られたとは思わないであろう標準的な姿。
そこにどれほどの驚きがあるというのか。
とりあえず食べてみないことには・・・。
事前に「酸っぱいたこ焼き」とは聞かされていたのですが、確かに口に入れると確かにちょっと強めに酸味を感じます。
しかし、なんで酸っぱい味にしたのだろうと思っていたら、またしてもまんまとやられたわけですよ。
「なんだこれ。たこやきと古酒が合うってマジですか?」
「ひやおろしもいいですね。よくわからないけどすごく合う」
と、今までは一番合うのはどの日本酒かという感じだったのですが、このたこやきに関しては二種類の日本酒と相性が抜群に合ったわけです。
ひやおろしと秘蔵古酒に似通った部分などなく、今までは片方に合うともう片方はむしろ合わないという見解だったのに、ここに来てこれはズルイのひと言。
たこやきについて詳しく説明を聞いてみると、たこはいったんたたきにして水分を飛ばし、細切りでスライス。酸につけて硬くならないように保存しておいたそう。
酸は水に比べて飛びやすいので、焼くと水っぽくないおいしいたこになるのだそう。
そして、うれしかったのがスライスしてあること。
ふつうのたこやきならひと口ですが、つまみとしてはちびちび食べてながらお酒も味わいたい。
ただ、普通のたこやきはたこがひとつだけなのであとは衣を食べているような感じになりますよね。
それが、たこをスライスして入れてあることによって、何度もたこが顔を出してくれる。これはつまみとしては最高。
このたこやきだけでも秘蔵古酒とひやおろしを存分に楽しめるクオリティです。
前回の座談会でも西野金陵の酒井さんが「五味」について言われていましたが、日本酒に多く含まれている「甘味と旨味」にたこ焼きに入っているネギの「苦味」、まぶされたまぐろぶしやたこなど、海のものに含まれている「塩味」、ソースを含め、ちょっと酸っぱいという言葉通りに含まれている「酸味」と、五味を完全にコンプリート。
おいしいと感じられる要素は実は最初からそろっていたということかもしれません。
鮑ステーキ 肝ソース 卵黄味噌漬け
そして、またしても期待値を最高地点まで高めておいて登場したのが鮑のステーキと卵黄味噌漬け。
鮑のステーキには肝のソースがかかっています。
豚角煮を食べた時点では、秘蔵古酒の活躍が次にあるとすればこの鮑ステーキだとその場にいる全員が思っていました。
ここまでその予想に反して二度も驚きと感動をくれた秘蔵古酒。
さあ、またあの感動を届けてくれ。
特に二連続で秘蔵古酒に合う和食が続いて出て来たものだから、我々は忘れてしまっていたんです。
合うものには絶妙に合うが、合わないものには完全に合わないということを。
この試食会で何度か見た光景。
無言で秘蔵古酒のグラスを元あった位置に戻す。
しかし、あきげしき、ひやおろしと進めていくとまたしても「ん?」という表情になります。
この思ってたのとちょっと違う感じ。はて、どこかで・・・。
そう。これは鮑を切って肝のソースをかけた、いわゆるシンプルに素材の味を楽しむ料理です。
ならば、ご登場願うしかありません。
助っ人の月白に。
食感がコリコリしていて歯ごたえがあるわりに、味わいは深く優しい鮑は、主張の強いお酒の味には負けてしまいます。
だから、同じように主張せず、肩を並べて歩いてくれるような感覚でスッと入ってきてくる月白の優しさがすごく合う。
ここに来てまたしても月白が登場するとは思いませんでしたが、完全に予想を裏切られ、酔いが回って来ていたことも手伝ってそれすらも快感を覚えるようになっている気がします。
松茸玄米粉揚げ 青唐 すだち
お酒を合わせて食べる料理は残り2品。
ここで秋の味覚の王様が満を持して登場してきました。
松茸の玄米粉揚げです。
青唐辛子とすだちが添えられ、玄米粉を纏っていてもなお隠しきれない風格を放っています。
軽くひと口食べてはお酒に口をつける。
そして、すだちをかけ、爽やかさをプラスしてもうひと口。
「黒七味をかけるとまた違った感じを楽しめますよ」
という二蝶の主人、山本の言葉で今度は運ばれて来た黒七味をかけてさらにひと口。
どれも違った味わいで、でもちゃんとベースにある松茸の味と風味は損なわない。
お好みでどうぞなんて言われた日には、ぜんぶ好きですと言ってしまいそうなくらい、甲乙つけがたい。
そして、ここでも予想外。
かなりシンプルな味付けのはずなのに、何故でしょう。
「古酒が・・・合う!!」
今回は秘蔵古酒とあきげしきがかなり相性が良い感じです。
それにしても秘蔵古酒、すごいですね。
角煮のような濃い味のものは相性が良いと思っていたのですが、松茸玄米粉揚げのようなかなりシンプルな料理にも合うとは正直思いませんでした。
合わない時はびっくりするぐらい合わないのですが、思った以上に合う料理がたくさんあったのも意外でした。
そして、一度合う感覚を知ってしまうとつい求めてしまう。優しくしてくれると嬉しくて、冷たくされると悲しくて。
今回は秘蔵古酒のツンデレに完全にもっていかれた感じです。
ツンデレ
ツンはツンツンの略でトゲがあるようす。デレはデレデレの略で甘えるようす。ツンデレとはその両方を併せ持ち、普段はトゲのある接し方をしてくるが、一定の条件下においてデレデレした態度に変化する人間のことを指す。
ちなみに、青唐辛子には時折当たりと呼ばれる酔いが冷める様な辛さを持ったものがあるのはご存知の通り。
見分ける手段はなく、もしかすると混ざっているかもしれないといそうです。
山葵酢和え 鱧 おろし 花穂紫蘇
お酒に合わせる料理の最後は塩焼きにした鱧を山葵酢和えにしたひと品。
湯呑みのような深いお皿に入って登場してきました。
鮮やかな緑に花穂紫蘇が美しい彩りを添えています。
塩焼きにした鱧の味に山葵酢のさっぱりとした味が絡まります。
味の濃いものや深いものなど、たくさんのお料理をいただきましたが、鮑ステーキ、松茸玄米粉揚げ、山葵酢和え 鱧 おろしと進んでいくにつれて、心配りを感じられる体に受け入れやすい優しさを感じられる味付けになっていきます。
そして、ここではひやおろしとあきげしきがいい感じの相性を感じさせてくれました。
中にはかなり挑戦的なメニューも含まれていましたが、最後は上品で質が高く、それでいてどこか優しさのあるひと品。
勝手なイメージですが、料亭らしくトリを飾るのにふさわしいひと品という気がします。
そして、そこにきっちりとひやおろし、あきげしきがマッチしたのもどこか因果なものを感じました。
普段の二蝶のお酒に今回の3種類が仲間入りできるだろうかと考えると、あきげしきとひやおろしはおそらくすぐにレギュラーを取れるはず。
しかし、秘蔵古酒はやっぱり特別ゲストであり、好きな方、理解できる方に楽しんでいただく特別なお酒なのではないでしょうか。
そう考えると、この3本をチョイスしてきた西野金陵の酒井さんの「選酒眼」もさすがです。
二蝶の料理があるからこそできることと、西野金陵さんのお酒に対する情熱があるからこを実現できるものがあること。
その両方が合わさると、足し算ではなく掛け算をしたようなパワーが生まれるのだと感じさせられます。
酔舞の会をやろうとお声がけくださった西野金陵さんには感謝のひとことです。
子持ち鮎そうめん 生姜
お酒と料理をお楽しみいただく酔舞の会もいよいよシメの登場です。
子持ち鮎そうめん。
子持ち鮎は骨まですべて食べられる柔らかさ。
骨を取って食べる方もいらっしゃると思いますが、そのまま食べても問題ありません。
そして、酔った体に優しい生姜と、塩味のきいた出汁が体に染みます。
「あぁ・・・」
と、思わず言ってしまうような安らぎと共に、心ゆくまでお酒と料理を楽しめた満足感が包み込みます。
渋川栗 柿 無花果 マスカルポーネ 振り柚子
最後はお口直しのデザート。
柿に無花果、渋川栗といった甘味にマスカルポーネが乗っかっています。
甘く優しいデザートは、これだけでも女性ファンがつきそうです。
お酒と料理を合わせ、相性を確かめながらの試食会でしたが、最後のデザートまできっちり楽しめるものになっています。
進行のスタイルを変更し、サービスのあり方を変える
今回、料理とお酒を合わせてみて、正直、感動も驚きもたくさんありました。
さっきは抜群に合っていた日本酒が次の料理では違った表情を見せる。
さきほどは全く合わなかったのに、次の料理では感動するぐらいばっちり合う。
その感覚は、興味深いというよりも「おもしろい」という感覚でした。
そして、今回の試食会に参加したメンバー全員がその感覚を共有していて、やっぱりみんな酒好きだと思っ・・・酔舞の会に参加される方々にも同じ感覚を体験していただきたいとしだいに思うようになっていきました。
だから、酔舞の会は、この時限定で日本酒をすべて並べる「飲み比べスタイル」にした方が純粋に日本酒を楽しんでいただけるのではないかという話になりました。
もちろん、お酒好きの方が集まる会ということを見越した上で決めていますので、普段はこういったサービスはありません。
「あきげしき」「ひやおろし」「秘蔵古酒」の3種類を常にお手元に置いて、料理と一緒に楽しんでいただく。
「これは合う」「これは合わない」「私はこれが好きかも」といったことを自らの舌で感じ、お隣のお酒好きの方々といろいろ談笑しながら味わっていただく。
それがきっと、想像していた「酔舞の会」にふさわしいスタイルなのではないかという答えに至りました。
試食をしてみて分かったこと
今回、こういった試食会に参加してみて改めて気づかされたのは、自分たちが楽しいと感じたことはきっとお客様も同じ思いになっていただけるのではないかということ。
おそらく酔舞の会に参加してくださった方々は秘蔵古酒の表情の変化に驚き、魅了され、突然訪れる感動に“ギャップ萌え”するはず。
前回はこれが合ったのに、今回はこれが合うといった感覚を楽しみながら、お酒の話に花を咲かせるはず。
そんな中でいろいろな発見があり、最後はやっぱりお酒を飲むのは楽しいなというシンプルな思いに帰結する。
これからも二蝶としてのサービスは続いていきますし、酔舞の会以外にもさまざまなイベントが開催されます。
そして、その場その場に合わせてお客様の想いだったり、趣向だったりが存在しているので、その中で二蝶がどういった役割をもってサポートできるのかを考えていき、お客様と接していかなければならないのかなという、良い見本になった気がします。
今回、この試食会レポートを通して「二蝶は見えないところでそんな準備をしているのか」「自分たちも楽しみながらもサービスに対してさまざまなことを考えているんだな」といったことが少しでも伝わればうれしいと思っています。